夜遅くに
インターホンがなり「宅急便です」と声が聞こえた。
え?こんな時間に?何かの勧誘かなにかだろうか。
ドア越しにおそるおそる
「…なかみはなんですか?」
「んー、お花のようです」
お花?お花。身に覚えがない。
「だ、だれからですか?」
と声を潜めて訊ねた。
「えーと、し、、しげ、、重松、、、清?、、、重松清さんからです」
慌ててドアを開けた。
「すみません、ありがとうございます。受け取ります!」
重松清さんから、お祝いのお花が届きました。
ありがとうございます。
映画『幼な子われらに生まれ』は、重松さんが1996年に書かれた小説が原作で、
脚本家の荒井晴彦さんが脚本を書いてくださいました。
重松さんが、21年前にこの作品を産んでくださらなければ
この映画も生まれていません。
ある特定の家族のお話ですが、今では、この家族が抱えることは、
今の日本で「父」「父性」「家族」を考える上で普遍的なものになるのではないか、と思いました。
離婚率や再婚率も増え、血のつながりの前に「自己」と「他者」の認識、そしてその「自己」と「他者」のつながりをどうしていくのか、見直す時期が来ていると感じたからです。
それぞれのキャラクターもとても魅力的な作品でした。
何より興味深かったのが、主人公がいろんな出来事や異質な人間=他者と出会うことで、
自らの本質が剥き出しにされていくことです。結局、生きていくというのはこういうことなんだと気づかせてくれました。
だから、どうしても映画にしたいと思いました。
映画が完成した試写後、重松清さんと顔を合わせたいような合わせたくないような…鼓動が高鳴りました。
が、重松さんの方からやってきてくださり、
「作品が喜んでます。ありがとう」と手を握ってくださったことが
どれだけ幸せでありがたかったことかしれません。
去られてから、なんだか、体中の力が抜けました。ホッとして、「よかった」と口元が緩んでいたと思います。
お花は、とても素敵な色の大輪でした。
このお花には、大きなものがこめられています。
ここからまた、いろいろがんばらないとあきませんね。
本当にありがとうございます。

報知映画賞『幼な子われらに生まれ』
監督賞と田中麗奈さんが助演女優賞をいただけ
ました。
選んでくだり本当にありがとうございます。
心から感謝します。
なんだか、私自身は、おこがましい心持ちですが、、、、
この賞は、原作の重松清さん、脚本の荒井晴彦さん、浅野忠信さんはじめ芝居を一緒に作ってくれた全キャストと
特に子役たち(南沙良、鎌田らい樹、新井美羽)、
最後まで作品に寄り添ってくれたスタッフがとった賞だと思います。
いろんな局面でほんとに苦労し難産だった作品なので、なんだか報われますね。
順撮りさせてくれたプロデューサーの森重さん、江守さん、ありがとうございます。
選考理由に涙がこぼれそうなほど、嬉しく思いました。
「今の時代を静かに描く演出」(松本)、
「子役を上手になだめながら撮っているように感じられ、演出家として達者」(渡辺)。
そして、そして、麗奈さん、
おめでとうございます。
難しい奈苗の役を演じ切ってくださりありがとうございます。
みなさま、おめでとうございます㊗️
そして、本当にありがとうございます。
P.S.全国でまだまだ上映しております。まだの方、また観たいと思ってくださる方、是非足をお運びください。
JALの機内でも上映されてます。
P.S.インタビューでもQ&Aでも、
子役について、子役の演出についてほんとによく聞かれます。
自分の演出のスタイルを誤解をしている記事をお見かけしたこともありますし、
ここできちんと子役の方への自分の演出スタイルと経緯を書いておきたいと思います。
『幼な子われらに生まれ』が
山路ふみ子映画賞の作品賞と田中麗奈さんが女優賞をいただけました。
この賞を麗奈さんと共に分かち合えたことが、 ほんとに嬉しく思いました。
麗奈さんと目があって泣きそうになりそうなのをぐっとこらえて挨拶させていただきました。
スタッフ、キャスト、関わってくださったみなさま、おめでとうございます。
生きてたら、いいことも、あるんですね。
「重みと歴史のある賞をいただけてほんとに感謝しております。
お金も集まらず配給も決まらないという難産でしたが、絶対にこの映画を生むんだという思いでやってきました。
脚本を書いてくださった荒井晴彦さん、一緒に芝居を作ってくれた全キャストと最後まで寄り添ってくれたスタッフのおかげです。ありがとうございます。
何より(キャストの)田中麗奈さんと一緒に、ここに立てたことがうれしいです。
奈苗という役は本当に難しくて現場で無理難題を麗奈さんに出すこともあり、苦しみながら一緒に作りましたから。
それから、個人的に思うのは…。この映画の中に「悲しみの果て」という歌が出てきます。
♪悲しみの果てに何があるか俺は知らない。悲しみの果てに、素晴らしい日々を送っていこうぜ。と歌います。なかなか、素晴らしい日々が来ると信じられませんが、そんな日も来るのかもしれないと信じさせてくれる日になりました。
この賞を糧にこれからも人間を深く掘り下げて、どんな状況でも発信していける表現者でありたいなと思います。本当にありがとうございます。」
*写真は、贈呈式後の楽屋にて

台湾金馬映画祭によんでいただき、ありがとうございます。
大好きなエドワード・ヤン監督の「牯嶺街少年殺人事件」を生んだ国の映画祭、に行けるなんて、幸せです。
侯孝賢監督プロデュースの映画館で『幼な子われらに生まれ』来年1月5日、台北で公開にもなります。
インタビューや2回のQ&Aもまた、とても深いクエスチョンで、幸せな時間でした。
✳︎斜行エレベーターの意味は?
✳︎空間=ロケ場所がそれぞれのキャラクターを表してると思うがそれぞれどうねらったのか?
など、
たくさんあるんですが、
いくつか、を記してみます。
Q:ドキュメンタリーから劇映画に転向した三島監督にとって、2つの違いはあるのか?
A:ドキュメンタリーと劇映画の違いはもちろんあります。
しかしながら役者さんもひとりの人間ですから、癖や性格もそれぞれですし、その日のコンディション・感情によって様々な変化が有ります。どうしたら、その作品、またはそのシーンの目指す一番いい演技をしてもらえるだろうか。とその役者さんを観察するところから始めます。例えばこの2人なら自由にやってみてもらう、このメンバーなら1人の芝居を決めてその反応を見るのが一番ではないか、、、など、その日や役者さんの組み合わせによってやり方を変えていきます。その時生まれる役者さんどうしの化学反応がなにより大事ですから、そういう「人間の化学反応を切り撮る」という点では、ドキュメンタリーと劇映画は近い部分があると思います。
Q : 『少女』を観ても『幼な子われらに生まれ』の子役たちを観ても、三島監督は少女の複雑な感情に寄り添っているように見えた。どうですか?
A : そうですね。いびつな少女、というエッセンスは、ずっと自分自身のエッセンスとして存在しているし、おそらく、そのエッセンスは作品のどこかに入ってしまうと思う。
おそらく、小さい時に自分にとっては、時が止まるほどの経験があり、それが、消えないのだと思う。
ただ、これから、はわからない。
自分の中に、その出来事と神戸の地震というできごとが、大きく存在していて、出来事から遠くなればなるほど、自分のアンテナが反応したり考えることが変化してきていることを最近感じるので、また変わるのかもしれない。
トロントリールアジアン映画祭オープニング上映に『幼な子われらに生まれ』を招いていただき
ありがとうございます。300人以上の会場が満席となっていてとても光栄に思いました。
Q&Aはとても深い話で幸せでした。
その後もドイツの監督、アメリカのドキュメントの監督、ギリシャのお客さん、トロントのみなさま、たくさんの方が、感想を言いに来てくれ、この映画について、ずっと語っていただけることが、ほんとに幸せです。
◯3人の子役がすばらしかったが、どんな演出をしたのか?
◯一人カラオケがすごく面白かったが、日本ではポプュラーか?
◯血の繋がりを重んじる日本でなぜこの作品を作ろうと思ったのか
◯お父さん、と呼ばせることについて、なぜそんなに執拗になるのか。
などなど。
あとは基本的に以下の質問。とても充実した時間でした。
1. What motivated you to tell this story?
(この話を映画にしようとした動機は?)
動機は3つあります。
ひとつには、自分自身父を亡くし、自分のルーツである大阪の実家もなくなり、血についてそして家族について考えていたこと。
二つ目に、現代の日本が、離婚率も増え、再婚率も増え、外国の方がたくさん日本で暮らすようになって、血の繋がり以外のつながりを見直す時期に来ていると感じていたこと。
三つ目に、他者と出会い、他者とぶつかるたびに自己の本質が見えてくる、そんな作品を作りたいと考えていたこと。
この3つのエッセンスが、この物語にはありました。
2. What can a man do to be a “good father”? And woman be to be a “good mother”?
(良き父、良き母になる要素は何でしょう
わかりません。私自身子育てをしてないので。
良き母とは、良き父とは、の正解は永遠に見つからないのかなと想像します。正解が見つけられたと思っても、それは正解かどうかわかりません。
ただ、正解を見つけようとあきらめずに向き合う覚悟がある、ということかなと思います。
性別関係なく父性とは?と問われたら、
父性とは、「自分が構築した尺度を示すこと」
母性とは?と問われたら、
「無償の愛」と位置づけています。
3. In Japan there have been many tumultuous events in its history of being up-rooted and so-forth. Are “complicated family units” more acceptable now in Japan than previously?
(日本の歴史上では血を絶やすとか家督を継続する事が大きな問題として取り上げられる事が多いですが、「複雑な家庭」は近年受け入れられる様になっているのでしょうか?)
日本では
血は水よりも濃い、という言葉があります。
血の繋がった血縁者の絆は、どんなに深い他人との関係よりも深く強いものであるというたとえです。
ですが、離婚率も再婚率も増加した日本では、変化を余儀なくされてきていると感じます。でも一方で、血にこだわる流れも感じます。
日本人という血、家族の血縁のつながりへの強いこだわりは、時に疎外感を生む時があり、恐怖すら感じる時があります。
自分個人は、水は血よりも濃い、と思うことが多くありますし、もっと〝個人〝に向き合うべき時が来ているのではないかと考えます。
タイトルにもETRANGERと入れましたが、
血が繋がろうと繋がらなくても
《自己》以外はみな《他者》であり、
《自己》と《他者》との化学反応こそが、
生きていくことなのではないかと感じています。
4. How did audiences in Japan and internationally react to this film?
(日本及び海外の観客の反応は?)
信じる(believe)と書いてまこと(truth)という名前の主人公は一度失敗したことから、家族を最優先させるスタイルで生きている。
生活することが第一の専業主婦の奈苗、
非日常を求めてしまう奈苗の元夫の沢田、
仕事第一でやってきた信の元妻の友佳、
初潮を迎え、母親の妊娠に敏感になり、父親への愛憎が爆発する長女の薫、、、、
それぞれのお客様がそれぞれに共感したり寄り添いいろんなことを感じてくださいました。
なかでも多かったのは、
「血のつながらない家族を描きながら、
普遍的な家族のテーマが浮き彫りとなり、個人と他者、自己の本質、パートナー、家族などについて考えたと」という感想でした。
5. How long did this take from script to finished film?
(脚本から映画の完成までどれくらい長くかかりましたか?)
脚本との出会いから資金を集めて、キャスティングして、、、と六年間の時間がかかりました。
6. Any difficulties in production along the way?
(完成に至るまでの苦労は?)
地味なお話なので、
なかなか企画として通りませんでした。
なので、脚本家の荒井さんと一緒に
とにかく賛同者をひとりひとり集めて、
資金も集めてということを
時間をかけて地道に続けました。
内容に関しては、
大きな出来事がないなかで、
ある家族のある一時(いっとき)の風景を記録する。つまり、実際の家族を観ているような感覚で観てもらいたいと思いました。
演技に見えないリアリティーの追求を
一番に心がけました。
7. What advice do you have for aspiring film makers?
(映画製作を夢見ている人たちにアドバイスするとしたら?)
これから、もしかしたら非常に映画づくりのしにくさを感じる時が来るかもしれません。クリエイターにとって自由であることは最大の喜びですが、そんな位置にいけたり、そんな状況を目指すとしても、大きな不自由さの中で表現しなければいけないことが増えるかもしれません。
ですが、先人たちがそうしてきたように、何かしらの風穴をあけることは人間にはできるという可能性を信じています。例えばジャファル・パナヒ監督の『Taxi』のように。
どんな状況でも、発信し続けることが映画表現者なのかなと、自分自身もいつも、叱咤しております。
8. What’s your next project?
(次回作は?)
歌というエンターテイメントを織り交ぜながら、
過酷な人生を生き抜く女性の物語を企画しています。生きづらい時代になりかもしれません。だからこそ、「風と共に去りぬ」の日本の女性版を歌のエンターテイメント映画として作りたいと思っています。
thanks a lot.
*写真はトロントリールアジアン映画祭より
